Scxxxers is...

散文その他。全て読み切りです。

15番目

おれは小さなマンションの1階に住んでいるのだが、隣は長らく空き部屋で生活音などに気を遣うこともなく気楽に生活していたのだけれど、この度、あまりにも入居者が入らないことに管理人が業を煮やして建築会社に貸すという暴挙に出たようですっかりお隣さんは事務所になってしまい、表札も出していないので時々、面接にでも来たのか笑顔の知らないおっさんが間違って「失礼しまーす、××建設会社はこちらでしょうか?」と言いながらこの部屋に元気良く上がりこもうとするのをおれが(CD聴きながら恥ずかしいダンスとかしてるのを一時中断して)、いちいちナビせねばならず気を緩めることはできない。玄関の鍵は閉めたくないのだ。
ふと、テレビの電源を入れても、NHKとショッピングチャンネル(?)しか映らない仕様であることを思い出しリモコンをそっと、某デザイナー渾身の作品といわれているポップなカラーリングが特徴のリビングテーブルの上に置く。傷がつかないようにそっと。赤子を寝かしつけるようにそっと。おれはくそったれリビングテーブルの上にそれを置くんだ。

そして、今日もロードワークに出掛ける
(余談だが、おれは「走る」ということについてひとつ問題を抱えている。普通なら或る程度ランニングすれば、脳下垂体から一種の麻薬成分であるエンドルフィンなどの物質が分泌されて人間の感じる痛みやストレスをやわらげる作用に拠って一時気持ちよく走れるようになるという俗に<ランナーズ・ハイ>または<セカンド・ウィンド>と呼ばれている現象が体に起こる筈なのだが、おれにはそれがないことがつい先日判明したのだった。幾ら走っても息を切らしても疲労感が溜まるばかりで昂揚感など湧き出て来ないのだ。話に聞けば、それは途轍もない快感を齎してくれるという。同じペースで20分から30分ほど走っていると、或る刹那、頭の中が真っ白になり足の先や手の先など体の末端から中心へと心地良い電流のようなものがはしり体中に超人的な力が漲ってどんな素敵な夢でも叶いそうな気がして自分がそこそこスピードの出る軽自動車になったような感覚を覚えて最後には自然に目から涙が湧き出てくることもあるのだという。よくジャージ姿で泣きながら我武者羅に走っているランナーがいるが、それはその体験の真っ只中にいるのだと、<ランナーズ・ハイ>または<セカンド・ウィンド>に造詣の深い外国人の友人が約半分を日本語で残りの半分をどこかの国の言葉で言っていた。なので、一部語弊があるかも知れない。が、それを聞いた時は憧憬の念で愕然として次に少し切ない気分になり挫折も考えた。けれどもけれどやっぱりおれは走り続けようと思う。<ランナーズ・ハイ>または<セカンド・ウィンド>なんて所詮ちょっとしたオプションに過ぎないのだと自分に言い聞かせる。必死に肺に酸素を送り込みながら、筋肉の疲労にも負けず、泥塗れになりながら、ただ前に進むことだけ考えて、一生懸命走って行こうと思う次第だ)。 おれはゆっくりと玄関の扉を開けた。  fin